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空想島(6畳半)

空想をすることが、生きる糧となり地となり肉となり

すぐ隣に潜む狂気を描く『白き隣人』を読んで

大学生から現在に至るまでノンフィクションやビジネス新書、自己啓発関連の本を多く読むようになって、純粋に物語を楽しむフィクションとしての本を読むことが少なくなってしまった。何か読みたいなぁと思って本屋の本棚を満遍なく徘徊するものの、これといってピンと来るものがない。例え気になる本があったとしても単行本を買うのはちょっと高価なので、久しぶりに地元の図書館に行ってみた。

本日は図書館で偶然気になって手に取った『白き隣人』という小説が予想以上に面白く、続きが気になってどんどん読み進めて3時間で読み終えてしまったので、ネタバレしない程度に紹介したいと思います。

 何かが欠落している隣人と宅配便が怖くなる

何かが欠落している、もしくは過剰、境界線を越えてしまった人、
それは、あなたの隣にいる・・・・・・。

本作『白き隣人』は、第12回ボイルドエッグズ新人賞を受賞して作家デビューした石岡琉衣さんが描く受賞後長篇第一作。ジャンル的にはミステリー&ホラーサスペンスか。残念ながら石岡琉衣さんという方は知らなかったのだが、本の帯に書かれていた紹介文(上記)が私の「内容が気になるアンテナ」に突き刺さった。

白き隣人

白き隣人

 

 物語は2本の軸に沿って進んでいく。1つ目は女性ライターのマンションに届けられる宅配便から始まる。お中元かと思いきや、その正体は目を覆わんばかりのおぞましいモノだった。誰がこんな嫌がらせをしているのか?姿の見えない犯人に怯え、精神的に追い詰められながらも、過去の取材相手を中心に犯人を探し始める物語。

もう1つは高学歴だがどこか浮世離れしている不思議な美少年を巡る物語だ。顔はいいものの考え方が異質かつ独特なので、今まで一度も女性と付き合ったことがないという男性が、合コンで出会った女性と意気投合するも「僕と一緒にいたらあなたは不幸になる」と彼女を拒もうとする。それはなぜなのか?

一見つながりが見えない2つの物語が読み進めていくうちに、だんだんと絡まりあい、不穏な雰囲気に包まれていき、息を呑む展開に発展していきます。だれもかれもが怪しく思えてきて、いったい誰がクロなのか考えるものの予想が出来ない。ミステリーでよくある殺人事件が起こって探偵がそれを解決するという系の話ではなくて、今の世の中、いつ起こってもおかしくない狂気を取り扱っている所がリアルで薄ら寒い。

ライターという仕事に向き合う女性の姿が印象的

『恐怖と狂気の二重奏』がメインとして描かれている本作ですが、著者である石岡琉衣さんがもともとテレビ局で報道記者、ディレクターとして勤務していたこともあり、ライターである女性の仕事ぶり、仕事をする上で避けられない現実と理想とのギャップ、生活していくために受け入れなければいけないモノに対する葛藤、理不尽な扱いを受けた時にどうするのが世間的には正しいのか、悩んで苦しみながら女性ライターが選んだ対応とは?

という風に、会社での人間関係や仕事について悩みを抱えている姿が描かれているシーンがある。理不尽な相手の理不尽で執拗な「自分のほうが上なのだから降伏しろ」と迫ってくる言葉の刃に屈しそうになる女性の姿は、会社や仕事をする中で感じる違和感や言いたくても言えないことを抱えている私たちの姿に重なります。それに対して嫌がらせに真っ向から対抗しようとする女性カッコイイ。実際にそれをやると最悪どうなるのかも描かれているんだけれど。

猟奇的で薄暗い人間の欲望を描く『GOTH』を思い出した

読み終えた時、一番初めに思ったのは「乙一さんの『GOTH』」っぽいなぁということだ。なんとなく、人としての一線を越えてしまった猟奇的な事件を描く連作短編集を思い出した。

GOTH―リストカット事件

GOTH―リストカット事件

 

 見えない恐怖、悪質ないやがらせ、精神的に人を追い詰めるために仕掛けられた残酷な罠。人には理解できない欲求を持ちながらも世間に溶け込んで生きる人。人を精神的に追い詰めていく残酷な表現、追い詰められていく女性がだんだん不安定になっていく心情や焦りが繊細に描かれていて、どういう結末を迎えるのかわからない所が恐ろしくも面白い。短編の連作ドラマとかにするといいかもしれない。

これ以上いろいろ感想を書くとネタバレになりそうなので、紹介はここまでにしておきましょう。ネタバレにはなってないよ、まだまだ全然大丈夫。久しぶりにフィクション小説を読んだからなのか、文体が読みやすかったこともあるのですが、息を呑む狂気に満ちた展開と結末が気になって、一気に読めてしまう小説でした。

本日のまとめ

久しぶりに本を読んだ気がする。最近はブログ執筆を頻繁にしていることもあり、文章という文字をPCという電子的なモノを通して読むことが増えていたので、紙媒体の本を読むことがとても新鮮に思えた。やはり自分自身の中にさまざまな物語と世界を展開できるフィクションは面白い。

ちなみに私が本屋や図書館でたくさんある本の中から1冊の本を選ぶ時に重要視するのは、表紙とタイトル、帯にかけられた紹介文、そして始まりの数ページである。「面白そうだ」という自分のアンテナであったり、第一印象を重視するということだ。新しい本を探す時に本棚を物色しながらするこの行為は、読書前の儀式であり楽しみでもある。この感覚はハズれることもあるが、今日の場合は大当たりだったので満足である。よかったら読んでみてください、中々面白いですよ。